醒めたあと〜百合日記③〜
ソファの上でしばらく戯れた私たちの肌は、少し汗ばんでいた。交代でシャワーを使って部屋着に着替えると、さっきの酔いがすっかり醒めているのを感じた。
素面のえんちゃんは恥ずかしそうだったけど、やっぱり私の隣にくっついている。
「ゆりちゃんが気持ち悪がらないでくれたのが、すごくうれしい。」
「気持ち悪く、ないよ」
私は膝を抱えた。
「ゆりちゃんに触れて、ゆりちゃんが触れてくれて。言ってしまったら嫌われるかもって思ってたから……信じられない」
「でもね、」えんちゃんの顔を見ないまま、私は言った。
「えんちゃんと私は、たぶんこれ以上はできないと思う。」
「…やっぱり気持ち悪い?」
「気持ち悪くない。でも、私たちって……なんて言うか…」まだ少し濡れた髪をもてあそびながら、言葉を考える。
「私たちって、2人とも受け身ちゃんだから…たぶん、これ以上は進まない。」
えんちゃんは黙り込んでしまった。悲しそうな顔に、少し心が痛む。
「キスは、時々してもいい?」
「いいよ。えんちゃんがしたいなら。」
「ゆりちゃんは、女の人と付き合ったことあるの?」
「…うん」
「今…は違うよね?」
「高校の頃」
「…別れちゃったの?」
膝を抱えたまま、頷く。
「好きだった?」
「うん……すごく」
好きだったよ。ここしばらくは、あまり思い出さないようにしていたけど。
彼女の顔も、声も、私に触れる指先も。全部全部、大好きだった。離れてしまって、普通に生活できているのが不思議なほど。学校に行き、友だちと笑い合ったり、男のコと付き合ったり、バイトしたり。でも、彼女がそばにいない。
「その人とは、もっといろいろした?」
「うん。いっぱいしたよ。」
たくさん触れ合った。彼女は綺麗な指で、私の髪を梳いて、くちびるを擽った。半分子供だった私たちは、覚えたての恋に夢中になった。
「なんていう名前?」
問われて、私は久しく呼ぶことのなかった名前を呟く。思い出すと今でも心臓を掴まれたように痛む、懐かしいひとの名前を。
続きます(・∀・)