朝の蝉《2》~百合日記⑤~
初めて幸が私の部屋に泊まった日の翌朝も、こんな晴れた明るい朝だった。
私が目を覚ました時、彼女はまだ眠っていた。カーテンの隙間からはほんの少し光が差し込んでいたけど、あたりはまだ早朝の静けさに包まれていた。
5分。10分。幸の寝顔を見ていると、やがて窓の外から蝉の鳴き声が聞こえてきた。
隙間から差し込む室内はだんだんと明るくなり、それにつれて蝉の鳴き声も大きくなってくる。午前中のやわらかな光と、絶え間ない蝉の鳴き声だけが、四角い室内に溢れていた。
あんなに幸福だった夏ってない。あんなに苦しかった夏もない。
言葉が途切れると、幸はいつも私の髪や頬に触れた。頬を滑っていた指に顎を捕らえられ、自分の唇に重なってくるものを受け入れた。あの夏の日々、幾度も幸が泊まった部屋で、カーテンの隙間から差し込む光の中で、触れ合った部分から熱を帯びてくる体を持て余しながら、浅ましい程に何度も抱き合っていたのだ。
私は、初めての恋人に触れられることに夢中になっていた。
初めの頃は、幸も私も穏やかに笑っていた。いや、こうして思い出す彼女の顔は、どれも穏やかなものばかりだ。
ふと、隣で眠るえんちゃんの体が身じろいで、私は過去から醒める。
そろそろ起きなければならない。蝉の声は、いよいようるさくなってきた。
のろのろと起き上がって、窓を開ける。もう夏も終わりだ。空気の中に、そんな気配を感じた。
続きます(・∀・)